2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

コンゲツノマトメ 【11年1月】

【ミュータント殺し】 嗜虐性を茶化したSF。正月だったので正月の話。一作目だったのですごく気を使って書いた。弱者しかでないところがよいと思う。 【アタッチメンツ】 三日も逗留すると温泉地も我が家と同じになる現象はまずは起きない。情緒が爆発した…

ゾラの居ない居酒屋

鴎がサンダルを咥えて飛翔している夢だった。大きな鴎が一足の女物のサンダルを咥えて川の上を滑空しているのだった。夢から覚めると頭の中身がすっからかんで、ちょっと景色が青みがかっていた。昨日の夜に家に帰り着いたままの格好だった。焦茶色のツイー…

パーマネントイエローディープ

わたなべは少しためらってからFの唇に唇を押し付けた。生まれたての蝉のような柔らかさだった。Fはわたなべの接吻に物足りないといった様子で舌を彼の口の中にねじって入れてくるも、やはりそこは高校生の限界、どこかおどおどとした動きに内心やれやれと…

玄怪は市電に乗って旅をする

瘤付き新妻の加寿子が指摘するには、私には人間として当然持ち得るべき精神構造が欠落しているらしい。私の書く物語はカタストロフィーもダイナミズムも無く、その代わりに砂漠で溺れ死ぬような気にさせるような文章である、と加寿子は鼻声交じりで話した。…

十月の森の花々或いは十一月の森の花

処女と童貞の美少女と美少年が戯れなば 88888888 深き森花がよよと乱れ咲き一日で無垢の花が枯れ豪奢な建築物がへしゃげ崩れり 88888888 朝陽勃興す 彼女の体は背中から裂けて酷いまでに劣悪な芋虫にならん 88888888 その凶々しい芋虫は可憐な少女の声でしく…

ビヨンド

素晴らしい夏をモッコとのりちゃんは過ごしたのだった。二人は黄金の季節。のりちゃんの栗色の髪は天然パーマのくりくりで本当に本当に映えるとモッコは写真機に彼の若くて美しい肢体を伸び伸びと撮り続ける。モッコくん、写真ばかり撮ってないでこっちへお…

狂言自殺の味

ヘンミさんはおかしな子だった。何の脈絡もなくラブホテルに誘ってもついてくるし、プレゼントをあげても全然喜んでくれない。部屋に入れてくれても入れさせてもらえなかったりする。気まぐれな子で済むようなエピソードを超えたエピソードは沢山あるけれど…

中学の思い出

中学で一番の思い出はやっぱり3・3戦争のことだろう。僕達の学ぶ第一中学は第二中学や第四中学とは違って、おっとりした人が多いと思う。はっきり言うと第二中学は工業地帯の真ん中にあるし、第四中学は港湾地区だ。だから僕達第一中学の生徒はのんびりし…

水道水男子

隣のクラスの転校生の近衛君はいつも水道水ばかり飲んでいるという。休み時間の度に水道水の蛇口をひねってごくごくと旨そうに水道水を飲んでいる彼を私自身も見た。私はその水を飲む様子にはっきり言って心打たれたといっていい。十七年間生きてきて初めて…

冬は何もすることがないので死ぬほど退屈な思いをしなくてはならない

我々の住む村は山の中腹にあってそこから町を見下ろすと本当に夜などは宝石箱のように美しく見えて儚かった。冬は厳しい寒さのせいで誰も彼もが顔を暗くして暮らしている。若い我々みたいな連中はそうなると面白くはなくて、胃に穴が開くまで途方も無い量の…

あたらしい朝がきていた

目覚めるとわたしの顔は爪になっていた。歯を磨こうと洗面台の前に立って慌てたものだ。頭が指になっていたのだから。中指だろうか。この感じは……きっと中指だろう。わたしはとりあえず混乱しつつも歯磨き粉を歯ブラシに落とし込み、爪の部分を優しく傷など…

一金属における華麗なる追憶と修練過程における死

珠のように美しい女であった。喫煙室は髑髏模様。彼女は電話の先の医師と話していた。その距離三万光年。私は黙って煙草を燻らせて彼女の声を鼓膜に響かせている。彼女は泣いていた。彼女は美しかった。電話先の医師も彼女によからぬ妄想をしていたことと思…

老母

久しぶりに帰った実家の冷蔵庫を開けると、ハムやチーズが大量に入っていて驚いた。何というか、医者に勧められたものを勧められたまま買っていると母は言った。乳製品や肉の嫌いなはずの母の背中は昔よりも小さいように思った。耄碌し、老いて行くのは自然…

アタッチメンツ

何年も昔のこと。咳が止まらない病気になった時分に、長野県のとある温泉保養地に三日ほど逗留したことがあった。三日布団で眠り、温泉に入り、雪景色の外をあても無く好きなだけ歩き回ったりして、心を慰めたのであるが、咳は一向に止まる気配はなかった。…

ミュータント殺し

正月に家族で集まって団欒をやって、あははないしはおほほと笑い、酸欠気味の駅伝選手がテレビに映り、餅など啜り、お父さんとお祖父ちゃんの政治談議が始まるとお母さんとお婆ちゃんは洗い物を台所に運び、わたしはそれから真顔になって自分の部屋に戻る。…