ウォー・モーテル

シャニンはニコっとすると笑窪ができる。それが、作り笑いだろうと、そうでなかろうとできる。つい最近までベトナム人の富豪に三年の間、妾として囲われていた。妾宅としてあてがわれた富豪の別荘は彼女に言わせるとお伽話が具現化したような家だった。笑窪…

スターニー・スタン

彼女の髪を撫でていると、ミイラを思い出す。生贄に出された古代王国の処女のごとくトウモロコシの髭のような色に半分だけブリーチされた髪。豊かな髪。私の中年の腹に身体をぴたりと付けて心地よい寝息をたてている。滑らかな肌。若さ。それらが渾然一体と…

悪。この世の悪のすべて。それらを集め、裏漉しをしてから、火がかけてあるひとつの鍋にいれる。ぐつぐつと悪が煮られていくと食欲がそそられるような香りに満ちる。悪のスープ。これを飲めば世界の王になれるという。しかしそれを飲んだものはまだいない。…

儚く優美な細い指が異臭を放つ紫色に反り上がった陰茎を握るまで

春色のコートを羽織ったきょうの彼女は念入りに綺麗だった。録郎は彼女の細い首を絞める妄想をしながら、無言で彼女の後ろを歩く。振り向いては、笑顔を見せる彼女。歯が完璧に整っている。あれらの歯をペンチで一本一本全部抜き取ったらどれだけすっきりで…

milky mother menace

「彼女」と別れて一番心配なことは、「彼女」が孤独なまま死んでいくことだった。自分が支えていなければ、彼女がやっていかれないと思い込んでいたのだ。だが、蓋を開けてみればどうか。彼女は充分やっていけていた。わたしが想像したような彼女はそこには…

アンダー・ザ・オール・マッドマン

不思議でならない。肉体関係のある女性から百発百中で、あなたは他人を見下している、と宣言される。百歩譲って、おれが他人を見下しているから君に何か迷惑をかけたのか、と問いたいが、女の脳味噌は容量が少ないのでついつい可哀想になって追求できない。…

犬神銀座

実の娘とはいえ、私は彼女と同じ時間を過ごしたことが殆どない。いや、彼女の顔を見たことだって数えるほどしかない。自分が父親だという自覚がないまま、彼女はどんどん成長していて、勝手に大人になっていたのだ。私が彼女に対して何らかのアドヴァイス欲…

1.5

ひとつの仮説をたてるとすれば、喪われたものというのは存在しない。したがって、葬送はできない。喪われたものなどはなにひとつとして存在しないという認識を共有することを第一の目的にする。視点をかえる、ということではない。言葉や形式に飲み込まれた…

豚は豚の夢をみる、あられもない姿の豚の

売比さんは多情な女で、多情な女ネットワークを駆使し、多情な女のための共和国を作ってそこの総理大臣をしている。売比さんはぼくにはとてもよくしてくれて、半身不随の画家の妻を用立ててくれたり、入れ墨が全身に入った歌人や(耳無し芳子ちゃん)、犬と…

milk, sausage, and a little of the conversation

インターネットが監獄を意識させるのか、監獄そのものが意識をもって接続と未接続の間を浮遊しているのか、ぼくには難しくて理解できそうもない。トルコ桔梗が花瓶にびっしりと飾られているのを眺めながら、ぼくは矯子さんを立ちバックで突いていた。矯子さ…

It is a small world poisoned to Melancholia

得た知識をそのまま渡そうと思う。もしそれが受け取るに価するなら受け取るといい。

Woman on the Salamanders

ーー非道いことは言わないでって言ったじゃないの。 彼女は言う。 おれはマールボロの赤をポケットから取り出して無言でいる。 ーーあんなにもう非道いことは口にしないでって約束したじゃないの。 ーー約束なんぞしていないぜ。 おれは言う。彼女のアイシャ…

The garden of madness Pt.1

なんて哀しい歌なんだろう。ラジオから流れる男のくぐもった歌声が部屋に響く。蝋燭の炎が揺れている。僕はマデリーンの顔を見る。マデリーンは暗い顔をさらに暗くさせている。それじゃ、もうどうにもならないってわけだ。僕はつぶやく。マデリーンはうなづ…

首魁/ 宿六/ 高鼾

高山植物を盗むのはいかにも善良そうな老人クラブの面々だったりする。例えば、本能寺の変を省みて欲しい。高山植物が信長。老婆が明智光秀。秀吉には子種がない。高山植物の美しい花はもぎとられ、本能寺が炎上している。つまり老人クラブは恐ろしい組織だ…

愛と狂気とラバーボンテージスーツ

電話の声が言った。背中がせつないの。僕は聞き返す。切ないって何が?電話の向こうからは溜息が漏れる。電話が切れる。僕は餃子の皮に再びネタを包み始める。電話が鳴る。受、のボタンを押す。電話の声が言った。やっぱりだめよ、会いたいわ。僕は餃子を包…

メルヘンヘッドの女

女ってのはつくづく研究対象になり得るね。とっかえひっかえってえわけでもないが、ひとまず、色々な女に手をつけておるのだが、なんだかなァ、夜はだいたい一緒だ。濡れる。挿れる。喘ぐ。拭う。の繰り返し。楽譜が背中に貼り付けてあるのか。脳味噌の代わ…

女性器(かなしみ)よこんにちは

失礼とは思いますが、思い切って、告白。女性器ってえのはあれですね。軽く煮た貝のようなものです。熊は爪をたてて張り手をし、蛸は腕でぐるぐると敵を捕殺する。一方ヴァギナは男性器を咥えこみ、締め付け、時に墨を吐いて威嚇もするが、概ね、無力である…

タイヤがついた地蔵に乗る

守田は手足が長い女で、要するに薄らバカのトンチキの世間ズレしたすべ公で。おれはそういう毒にも薬にもならん奴は好かんのだけどもさ越前海月同様に童謡に動揺した挙句の果てがご臨終ポクポクがチーンっつってだな、結局は守田のあるのかないのかあるのか…

With dark hole, rising moon and domestic daughter

青天井の底。暗いきみの部屋。弦が飛んだギター。恐怖に包まれた歓喜。氷の湖に落ちた鹿を助けようとする映像。カチっ。 マスター。ねえマスター。昆布茶ってあれ不思議な飲み物ですね。どんな悪さをした人物だって昆布茶を飲めば善人に映るでしょう。暮れな…

B級ポルノあらゆる青春の門は白蟻まみれ

《がま口はけ口》モーテル。入り口の白色蛍光灯がチカチカとしている我らがモーテル。空き室あり。熱い夏。OKモーテルコンピュータ。おれは部屋をコンピュータ管理された液晶画面で選び指紋をべっとりとつけながら、蓮の間を選択する。ツレは二十二歳。飛び…

自然薯

前略 先生、ご無沙汰しております。 僕はあなたにいくつもの借りがありますが、どうもお返しできそうにありません。人生は短く、義理を果たすには人間の意思は薄弱すぎるのです。冷蔵庫に三年間も入り続けた牛乳は豆腐のように固まり、インテリジェンスを売…

六ガロンに融けた月を肴もなしに飲む

天下泰平。空は青く澄み渡り。エジソンの発明品がきょうも世界をまわす。幽鬼の群れとなり人類皆兄弟。行き交う人の誰も旅人ではない。市は吐瀉物と骨付き肉で埋まり。日能研のNのバックが哀しくどぶ川を流れる。針の山を裸馬に乗って駆け下り。我らは歌う…

田虎七十七

フェルナンドは重爆撃機の操縦士で、今日も全然知らない街を爆撃しに飛び立ったところだった。仲間たちは銃座や爆弾を卵みたいにポコポコ落とす機械の操縦席などに座り、思い思いの時間を過ごしていた。フェルナンドは計器をチェックし、自動操縦のレバーを…

続ジョピン

【挿入文書】二〇一二年十月二十日。FBI通話記録。長官の要請による録音。機密分類1−A。長官以外閲覧禁止。通話者/フーヴァー長官(JEH)、フレデリック・A・ティンバーレイク(FAH)。 JFH やあフレディーかね? FAH はい、長官。ご無沙…

ジョピン

(通信) ハローグランドコントロール。 ハローメジャージョピン。 ファッキューグランドコントロール。 ユートゥージョピン。 (通信終わり) ピストン運動的新宿御苑通いが実って、とうとうジュビリーをモノにしたのが夏の終わり。御苑近くのベトナムカフ…

左心房で粗茶をいただく

あの日の朝、器械伯爵は、メインコンピュータの電源スイッチを愛おしそうに撫でておりました。それからわたくしの名前を高らかにお呼びになると光線銃を持ってくるように御命じになりました。わたくしは黒光りしている光線銃を伯爵に手渡し、なにか気の利い…

ハイブリッドな虹がでる夜はハリウッドの文字がショッキンググリーン

いつもなら、気にもとめないこと。そういうものに気がつくとうれしい。例えば真夜中の廃屋のすぐ横で紫陽花の最後の生き残りを見つけたり。畑の横に女もののパンティーをめっけたりすること。ハンバーガーヒルはきょうも晴れていて町医者のほとんどは無免許…

Rain of blood in the town of evil

甲子園の五万人のため息を聞いたら、簡単には凡退できない。 キャサリンは迷っている。キャサリンは今とても迷っている。彼氏は三十五歳。冴えない男だ。キャサリンは悩んでいる。半年後には引越し先を決めなくてはいけない。親友のバーバラはドラッグと見境…

ザ・ブーメランパーティー!

鉱山廃墟の放棄された巨大団地の一室で腐った鍵盤をポロポロと弾けば鹿や熊公どもがやってきて猿の頭目が差し出す猿酒をまわし飲みする宴会の始まり。やあ楽し。飛び入り参加の麗し美姫は裸足で烏賊漁用のライトに照らされ暗黒踊。いや違うあれは漁火ではな…

西瓜の味

わたしは埼玉県の小さな町の図書館の司書をしている。夏休みの図書館は子供たちで溢れかえる。肩の凝る戦争だ。業務のほとんどは子守同然でオヒトヨシで愚図のニンゲンであるわたしは処理しなければならない仕事が山積みになっていく。19時の閉館前ぐらいに…