犬神銀座

実の娘とはいえ、私は彼女と同じ時間を過ごしたことが殆どない。いや、彼女の顔を見たことだって数えるほどしかない。自分が父親だという自覚がないまま、彼女はどんどん成長していて、勝手に大人になっていたのだ。私が彼女に対して何らかのアドヴァイス欲求や何らかの心配、或いは何らかの慈悲心でもいい、そういうものを抱いたことなどあるか?答えはノーだ。彼女と待ち合わせ場所で落ち合うと、娘は朗らかな笑顔で私の車に乗り込んできた。時間ピッタリですね、と彼女は敬語で話しけてくる。私はロバートでいい、と話しかける。それに敬語はよしてくれ。娘は肩をすくめて、ではあたしもサマンサでいいよ、と返す。いい子に成長したことが、すぐに理解できた。私はロバート・レッドフォード。君はサマンサ・タバサ。OKだ。理解できる。車が発車する。どこへ行きたい?私は尋ねる。サマンサは答える。お父さんと車に乗りたいだけだから、どこへでもいいよ、どこか遠くへ行こうよ。私はうなづき、娘を盗み見る。美しかった。自分の子ではない、見知らぬ他人のような感覚が抜けない。サマンサは足が殆ど出た服装だった。肉付きが素晴らしい。美しい娘だった。私はひどく怯えた。彼女は娘だぞ、と自嘲した。いやらしい想像を娘に対して実の父親がするものなのか、理解できなかった。でも、私は事あるごとに、サマンサの腕や太腿や膨らんだ胸を眺めていた。彼女は途中で買い与えたスターバックスを飲み、笑い、話し続ける。私は曖昧な返事をする。聞き役に徹する。だが、その実際のところは、サマンサがどんな男を好み、どんな男とセックスライフを送ってきたか、最近したのはいつか?自分より年上の男と寝たことがあるのか?という下劣な想像が終始頭をかすめていくのだった。目的地を決めて山道を車で走る。道路は工事が続いていて渋滞し始める。回れ右をするには山の中へ入り込み過ぎた。サマンサは話し続ける。幼なじみの友達の事。アルバイト先での事。学業。未来の都市。金に使われる人生は送りたくない事。紋切り型の普通の意見。そういうものが、あり、山の渋滞があり、光が溢れている。工事現場を過ぎてから、高速道路に乗り、速度をあげる。サマンサはiPhoneを車のオーディオの横についているUSB端子に繋げて音楽を流し始める。こういう音楽が好みなの、と彼女は恥ずかしそうに言う。ロバートはこういう音楽はあまり好きではないかもしれないけど。私は、そんなことはない、と言った。音楽は詳しくはないが、ロックは好きだ。音楽がかかるとサマンサは少し静かになった。私は彼女の母親と自分の馴れ初めを簡単に説明してやった。お母さんらしい、とサマンサは言った。私は彼女の母親への愛情が一度も訪れたことなかった。だが、サマンサへの感情は本物らしかった。或いは本物により近い何かを感じた。リアリズムといってもいい何かを。

四時が来ると、サマンサは少しかしこまって電話をかけてもいいですか?と訊いてきた。もちろん、好きにするさ、と私は言った。サマンサは会社に電話をかけているようだった。クライアントとの交渉も終わりました、これから帰宅します。サマンサは静かに電話を切る。我々は予定を大幅に狂わせて諏訪湖にいた。洲崎さん、とサマンサが言う。あたしきょうは本当に楽しかったです、とサマンサは言う。会社には嘘の報告をしました。私は彼女が口を開くたびに、喜劇役者のように早変わりで表情を変えてみせた。これから、食事をして、この辺の適当な温泉宿をとりませんか?サマンサはそう言うと運転する私の腕にしなだれかかってきた。私は彼女を「実の娘」としてオーダーしたのであって、こんな盛りのついたメス犬などお呼びではないのだが、と内心思いつつも、渋々了承をした。その代わり、一緒に居る以上は、サマンサで居て欲しい。サマンサは笑って、へんなひと、言うと私の唇にキスをした。実の娘が口にキスをするのかどうか、私は理解できない。でも、彼女の胸の柔かさを感じて、すぐにムスコが大きくなった。おとうさん、変態みたいよ、娘の身体に反応するなんて!とサマンサは言った。私は恥ずかしくてならなかった。温泉宿に投宿して、仲居にも娘と温泉宿に来て羽を伸ばしていると説明し、「実の娘」のヴァギナを使って3回も抜いた。私は彼女の中で動きながら、お母さんと身体が似ている、君が抱かれた男たちについて全部話せ、と言った。サマンサはずっと付き合ってくれて、お父さん、お父さんと呼びながら股間を締め上げてイった。翌る日、私はサマンサ個人に多めに報酬を渡した後で(アフターピル代も含めた料金だ)、改めて、車で東京への帰路についた。帰りの車中のサマンサは無言だった。その方がずっといい。好感がもてる。私はアクセルを踏み、遠慮していたタバコに手を伸ばし、火をつけたのだった。