2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

レクイエム【2011年2月】

なんていうか。マトメは結構どうでもいい気持ちが強いです。レディ硫黄ヘッドの新作が出たんです。なんていうかな。終わったなというか。ソム・ヨークの魅力はなんといっても拳銃を口の中に突っ込み泣きながら鳴く手法というか。まあつまりね。そういう拳銃…

塔ノ山幻覚

私は人生に投げ入れるべきものを全て詩に投げ込んでしまった。 ウラジーミル・ナボコフ 三年前の今頃だった。同棲していた女性と折り合いが悪くなっていた私は昼間は出て行く先と就職先を探し、夜はなるべく彼女に会わないで済むようにファミリーレストラン…

パステル

新稲さんは泣きたくなるぐらい可憐な少女だった。その日、新稲さんの服装は正ガールだった。正しくガールそのものだった。淡い水色のスカートに赤い花の刺繍があしらわれた白いシャツ。僕も向井も新稲さんが好きだった。いや、クラスの男子で新稲さんに恋を…

奇縁の作法

奇縁というものは怖ろしい。祖父はかつて鉄砲足軽の士分格の家に生まれたのであるが、曾祖父の代に、城下町が焼けて全財産を潰し(先祖が殿様から頂戴した脇差やら感謝状が焼けた)、挙句親類縁者に不義理を重ねては出奔を繰り返し、とうとう、K村のS氏に…

花牟田電鉄

ダイアを計算して、絶好のポイントを探し出すのは苦労も多いが、とてもやり甲斐のある仕事だ。ぼくは、三脚を置き、カメラをセットしてフォーカスを合わせる。花牟田電鉄は上下線合せて一日に八本。地元住民でさえ学生以外は殆ど使うこともない、マニアック…

弾葬

アドリアン、と老人は震える声で息子を呼んだ。アドリアンはやって来た。パパ、パパ。アドリアンは四十歳にもなってメソメソしている。老人は杖でアドリアンの肩をコツっと叩き、しゃんとせんか、とたしなめた。総領息子よ、あとのことはすべて、儂が取り仕…

外道ピクニック

これは既に終わってしまった重犯罪の告白ととっていただいて構わない。私は愛美をこの手にかけてしまったのだから。順を追って、お話しよう。愛美は良き妻であり、良き愛人であり、良き相棒であり、良き友であった。愛美は気位の高い女で、私を縛り付ける。…

ホーリー・シガー・マウンテン

その日、おれと親父はお袋の居ない家で二人きりだった。普段から会話なんてものは全くなかったものの、さすがに狭い家に一緒にいて、お袋がいないとなると親父も気を使って、夕飯用に用意されたカレーなどはやめて、親父特製の焼きそばにしてみようかと声を…

白菊荘1984

僕は小母さんのことなんか全然好きじゃない。その証拠に僕は今小母さんとキスをしている。小母さんは黙っていた。僕も黙っていた。小母さんは母の大学時代の同級生で、僕はオムツを替えてもらったこともある。そんな人に恋はできない。するわけない。第一、…

動機なき亡霊と季節外れの突風

エルヴィスが旧正月の合間に里帰りしたことがあったんだ。じいさんはおれに話し始めたようだった。バスの停留所にはおれとじいさんしかいなかったから多分、おれに話し掛けているんだと思われるが、如何せん、旅行者のおれはじいさんが何者なのか知らなかっ…

渡部リリィのZANNENBUZAMAな歌謡ディナーショー

三岡君、それでねって私は切り出した。昨日見た夢がなんか凄かったんだよね〜。机の上にはジョッキビールがふたつ。それと青菜の炒めと海老のチリソース。三岡君は私の大学時代の一年後輩で、付き合っている彼女がいて、仕事も人間関係も全部うまくいってる…

大四畳半惑星の影(シャドウ)

女はいい馨がした。O××駅の場末の立ち飲み酒場で飲んでいたら、自然に声をかけられたのだった。女は金髪で全身を黒い服で覆っていた。胸のところから見えるペンダントは独特の形をしていて、それを褒めると女はしなだれかかってきた。身体は細く柔らかかった…

雨宮博士

雨宮博士が大学の研究所を捨てて某県某市の山麓に庵をむすんで二十年が経とうとしていた。研究費など一切でない代わりに雨宮博士はひたすら自由に研究に没頭することができた。数年前までは妻のパートと娘のキャバクラ(お触りアリ)勤務で生計をなんとか立…

キャプテン白鳩

嫁が病気になった。顔に黒い斑点がポツポツとしている。死斑などは見たことはないが、私は彼女の顔を見ていて戦慄を覚えた。血の奥の奥から震えがきた。ああもうこうなったら御仕舞なんだろう。喫煙所に行って煙草を持つ手をじっと見つめる。筋張った男っぽ…