儚く優美な細い指が異臭を放つ紫色に反り上がった陰茎を握るまで

春色のコートを羽織ったきょうの彼女は念入りに綺麗だった。録郎は彼女の細い首を絞める妄想をしながら、無言で彼女の後ろを歩く。振り向いては、笑顔を見せる彼女。歯が完璧に整っている。あれらの歯をペンチで一本一本全部抜き取ったらどれだけすっきりできるだろうか。青空と咲き出した桜が彼女をより一層美しく見せた。美しい彼女は、ソーダ水の中の泡ように、キラキラと光っている。ガソリンをかけて火をつけたい。車で轢きたい。彼女を沈める底なし沼はないのか。猛獣の檻はどこだ。録郎は彼女が好きで好きでたまらない。好きで好きでたまらないので、殺してしまわないといけない気がする。彼女の美しさや若さを留めることができないことだけが心に刺さる。百万本のナイフを刺されてもこんなに痛くはあるまい。録郎は彼女の細い指に恐る恐る触れる。彼女は変わらない笑顔で、録郎を見つめる。散歩中の犬に、朗らかに、染み渡るような声で話しかける。犬は尻尾をふり、彼女の美しい細い指を、やがて切断されるべき指を、ベロベロと猥褻に舐める。飼い主の老人も、彼女の首の細さや長い髪の繊細さに心を奪われている。犬に別れを告げると、少し悲しそうに、飼っていた犬を思い出したのだろう、彼女は彼女から指を録郎の太くて醜い指にからめてくる。録郎は、彼女の薄い瞳を覗く。彼女の眼球は今にも繰り出した方がいいくらい澄んでいた。有料道路の高架下は昼間でも薄暗く、鬱蒼とした雰囲気で人気も疎らだ。彼女を殺すには絶好の機会だ。録郎は彼女の手をしっかりと握りしめる。彼女は、少し困惑したような顔をしたけれども、コックリとうなづく。録郎はそれが何のことか、分からない。なるべくなら痛みのない方法で殺してあげたかった。即死をさせるには録郎の腕力は足りない。気絶させて、それから一思いに心臓を銃で撃つ。殺人志願者の録郎はとうとう暗がりへ彼女を誘った。

雑木林と有料道路の狭間から、二人がでてきた頃には夕陽も落ちていた。誰も歩いていないような開発が遅れている新興住宅地の一角を徒歩で歩いている。彼女はもう作り笑顔はやめて、パンツも履かずに帰路を急いでいた。録郎はまるで自分が凌辱された少女のようだと感じながら、何か別の物と化した女の斜め後ろをよちよちと付いていくことしかできなかった。